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「友達のところには連絡してみたのか?」
森口家では佳一と友里恵がテーブルを囲んで悩んでいた。テーブルの上に並べた料理は少しも手が付けられないまま冷たくなっている。
「連絡先がわかるお家には何人か。夏香さんと優樹菜さんは駅まで電車で一緒に来たって言ってます」
「何だ、そこまで来たのか。近所の家には?」
「こんな時間まで寄らしてもらえる家なんてないでしょ? 電話もしないで」
「うーん、近くまで来ていた分、余計に心配だな」
「やっぱり警察に連絡しましょう」
「ああ」
佳一はため息を吐くように頷いた。
友里恵がスマホを取り出した時に家の電話が鳴った。あまりにいいタイミングで友里恵は飛び上がった。
急いで電話を取り上げる。
「はい、森口でございます」
「森口雪美さんのお母様ですか?」
薄暗い公園に面した人気のない通りで男がスマホで話している。男の着ているTシャツは雪美に話しかけた時にナイフを隠していたシャツだった。
「そう、ちょっと遊びに来ているんですよ。帰りは三日後か、十日後になるか、一生帰らないかわからないですが」
そこで男は話を切り、相手の話を聞く。
「無事だよ。乱暴な事はしちゃいない。警察に連絡するのは結構。というより連絡してほしいもんだな。刑事たちが来る頃にまた連絡する」
男は電話を切ると、スマホをポケットに入れて歩き出した。
「本当に犯人がそう言ったのですか?」
雪美の両親を前にしてソファに座る刑事がまた念を押すように尋ねた。他の者が固定の電話機に何か装置を取り付けている。
「はい、確かに警察に連絡してほしいって言いました。そしてまた後で連絡すると」
雪美の母らしく友里恵はきっぱりとそう言った。落ち着いている友里恵とは裏腹に佳一は落ち着かない。
刑事たちが腑に落ちない様子で顔を見合わせた時、電話が鳴った。
「五千万だ。お宅のお嬢さんの一週間の宿泊代ってことで。安いもんだろ?」
「だから大丈夫。泣きもしないでくつろいでる。大したお嬢さんだよ。刑事たちは来たか?」
「じゃ、代わってくれ」
「あ、刑事さん? どーも。来週の金曜日の午後二時、○○区のT公園。ちゃんと五千万円持って来させてよ。使用済みの札で、ナンバーを控えるのはNGだ。マスコミには内緒にしててよ」
刑事が何か言うのを無視して男はスマホの電源を切った。そして暗がりの公園にある池に投げ入れた。
刑事は苦虫を潰して飲み込んだような顔をしてテーブルをドンと叩いた。
厚い板のテーブルだったので痛みを紛らわせるために手をブルブルと振った。
「ふざけた野郎だ。警察をおちょくってやがる。何か相手の情報は掴めたか?」
他の電話で話をしている別の刑事がダメだというように首を振った。
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