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65歳を過ぎた頃、どう言う風の吹き回しか、ひょっこり竜郎が帰って来たのである。
「どのツラさげて戻って来たのよ!」
父親を元々毛嫌いしていた一人娘は、より一層憎悪の念を燃やし、自宅に寄り付かなくなった。
娘の言う通りなのだ。今更どういう気構えでノコノコと帰って来たのか、小夜子も興味がないと言えば嘘になる。しかし竜郎に問いただして全貌を明らかにすることにはいささか気が引けた。
行きずりの彼女と別れたのかもしれない、彼女などとうに居なかったのかもしれない、もう路頭に迷う寸前だったのかもしれない、それともただの気紛れなのかもしれない。何でも良かった。これまでの竜郎がどんな身勝手を働いてきたとしても、この年齢で小夜子の元に戻って来たのだ。その事実だけで小夜子は胸がいっぱいになったのである。
戻ってきた竜郎は多くを語らない。横柄に、さも当然とばかりに我が物顔で家に居る。
そばに居てくれるだけで、小夜子は十分だと思っていた。
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