チェイサー!

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「なるべく信号に引っかからないでくれよ」 「お任せください。私、赤信号を避けるのうまいんで!業界一早く目的地にお連れすることをモットーにしてますんで!」 五十木の不遜な態度などまったく気にしていない様子で、大鳥は元気よく返事をした。道路はしばらく直線になっている。大鳥は気さくな態度で五十木に話しかけた。 「ところでお客さん、幽霊って見たことあります?」 「は?幽霊?いるわけないだろ、そんなもん」 「これがねえ、本当にいるんですよ。私、こう見えて勘が鋭くて。だからなのか霊感も鋭いんです」 急いでいる客に振る話題だろうか。五十木はうんざりして溜息をついた。いかん、こんなに苛ついていては彼女に悪印象を与えてしまう。ミントでも食べて落ち着こう。五十木は胸元のポケットから小さなケースを取り出した。東欧の製菓会社が製造しているものを輸入した、日本ではやや珍しい品で、余計なロゴやら装飾やらを排したシンプルなデザインのケースに、ライトグリーンのタブレットが収められている。ケースの商品説明が外国語で、タブレットの見た目も相俟ってSNSで薬物みたいだと話題になったこともある。 ケースからタブレットを一粒出して口に入れた途端、涼やかな高原の風が鼻の奥を通り抜けたような気がして、五十木はいくぶん気持ちが落ち着いた、そのときだった。 「危ない、割り込んできやがった」という声とともに急ブレーキがかかり、五十木は思い切りつんのめって額を前の座席にぶつけた。
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