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そうすると、今ここにいる自分は何だ?あそこにいる自分は大丈夫なのか?五十木はタクシーを追う速度を上げた。この体は普通の肉体よりは速く動けるようだ。
そのとき一羽の鳥が五十木の脇腹に猛スピードで突っ込んできた。突然のことで避ける間もなかった。痛い、と声を上げそうになったが、何も感じない。鳥は五十木の半透明の体を、何の抵抗も受けた様子もなく通り過ぎていった。
「まさか、これって……」
幽霊って見たことあります?という大鳥の声が脳裏をよぎる。
「幽体離脱!?」
死んだわけではないから幽霊ではないが、自分は肉体と切り離されてしまったようだ、と五十木は推理した。俗説だと思っていたが、まさか本当に起こるとは思わなかった。
そのとき車内では、大鳥が五十木の肉体に向かって話しかけていた。
「その花、どなたかへのプレゼントですか?」
「……」
当然、反応はない。五十木の幽体というべきか魂というべきか、とにかくその意識は十数メートル後ろの上空にあるのだ。五十木は黙って中空を見つめている……ように、大鳥の目には映った。
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