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一方、五十木は必死にタクシーを追いかけていた。幽体は肉体より身軽で、宙を舞うように動くことができる。ただ、タクシーのスピードに追い付くほどではないのがもどかしい。五十木の姿は誰にも見えていないようで、行き交う車やバイクも、通り過ぎた通行人も、見咎めたり驚いたりする様子はない。
このまま肉体に戻ることができずに目的地に着いてしまったらどうなるのか。愛しのあの子に想いを告げることはできないし、意識がないために病院に搬送されてしまうかもしれない。
「早く体に戻らないとマズいな」
意味があるか分からないが、五十木は腕を振ってスピードアップを図った。そのとき、前方の信号が黄色に変わるのが見えた。チャンスだ!料金が上がるので嫌だったが、こうなったら赤信号に引っかかってくれるとありがたい。
「さあ、止まれ!」
幽体なら何かエネルギーのようなものを出せるかもしれない。五十木はタクシーに向かって念じた。
さて、大鳥はといえば、五十木が無反応なのをいいことに鼻唄を歌いながら運転していた。だが決して職務怠慢なわけではない。
(このお客さんを早く送り届けなければ……!)
そんな使命感もきちんと持っていた。赤信号に捕まらないよう、大鳥はアクセルを踏み込んだ。
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