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(気づいてくれたか――!?)
が、塔のように高まった期待はあっさりとへし折られてしまった。
「お客さん、この先事故で道が詰まってるみたいです。申し訳ないけど迂回しますね」
「全然霊感ないじゃないか!」
五十木がどれだけ憤慨しても、その声は大鳥には届かない。大鳥はハンドルを左に切って脇道に入ると、スピードを上げ始めた。五十木の霊体がタクシーから置いていかれそうになる。
しかしチャンスは突然訪れるものである。突如、大鳥がタクシーを道路脇に停めた。五十木の霊体がタクシー内部に再び侵入すると、大鳥が五十木の顔を覗き込んでいた。五十木は座席に頭をぶつけて幽体離脱してからずっと、目を瞑ってままだった。
「お客さん、起きてますか?」
「寝てるんじゃないっての。やっぱり霊感ないな」
五十木は大鳥の回りをぐるぐるとまわって抗議するが、大鳥の目線は五十木の肉体に注がれたままだ。……いや、大鳥が今見つめているのは、五十木の腕に抱きかかえられた花束だ。
「お客さん、そのお花を急いで届けたいんですよね。きっと急いでいて疲れて眠っているんだ。いいでしょう、私が全速力で届けます!」
「ま、待ってくれ。とにかく一旦落ち着け」
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