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確かに待ち合わせの時刻まで余裕はない。だが今の状態ではどのみち彼女と会うことはできない。とにかく肉体に戻りたくて、五十木はとりあえず停まっていてほしいと願った。
するとその願いが通じたのか、大鳥はなかなかタクシーを発進させない。代わりにハンドルを離して後部座席に身を乗り出し、腕を伸ばした。
「……何ですか、これ?」
大鳥が伸ばした腕の先に握られていたのは、五十木が食べていたタブレットのケースだった。急ブレーキの瞬間に手元から落ちて蓋が開いてしまったらしい。中から色鮮やかなタブレットを覗かせている。
「おい、俺のお気に入りのタブレットを勝手に……」
「何だかこれ、アレに見える……」
「アレって何だよ」
成立しているようで成立していない、お互いの独白が続く。
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