チェイサー!

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すっかり夜の帳が降り、ネオンに彩られた街並が車窓を流れていく様を、五十木は逸る気持ちで見つめていた。大切なものを守るように花束を抱きかかえる手が、じりじりと汗ばんでいく。 五十木進太郎は今宵、想いを寄せる女性に告白するつもりだった。彼女とは今日で二回目のデート。婚活で知り合った女性でお互いのことをまだ深くは知らないが、他の男性とお見合いでもして取られる前に、何としても射止めたかった。 花が好きだという彼女に、赤、桃色、黄色に青や白と鮮やかに彩られた花束を捧げれば、自分の想いも一緒に受け取ってもらえるはずだ。花屋で苦心して選んだ甲斐があった。もっとも、そのせいで待ち合わせの時刻に遅れそうになってしまったのは痛恨のミスだ。電車では絶対に間に合わないから、諦めてタクシーを拾う羽目になった。 五十木は腕時計を見てからドライバーの男に視線を送った。車内の掲示によると、大鳥留(おおとりとまる)というらしい。大鳥は五十木の恋路など露知らず、のんびりドライブでもしているみたいに呑気な表情でタクシーを運転している。スピードも随分と安全運転だと五十木には感じられた。 「もう少し飛ばしてくれないか」 五十木が急かすと大鳥は「合点承知しました!」とふざけた返事をよこしたが、本人は至ってまじめらしく、アクセルをぐいと踏み込んだ。
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