1人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆめのぬいぐるみ出現?
桜があちこちに生えている小さな街。渚ヶ丘。
春の初めから桜が段々と咲き始め、そして私の気分も明るくなってくる。
私は西山夕菜。
好きなことは本を読むことで、でも国語の成績がいいわけじゃないし、とっても平凡な小学五年生。
五年生って高学年とか言われてるけど、私も含めてまだまだ子どもだよね。
いつになったらオトナになるんだろうなあ。
でも、小五ですでにオトナっぽい人もいる。
「悠希くん、今日は特にかっこいい……!」
「特にって、毎日同じポスター眺めて何言ってんのあんた」
「お姉ちゃんは悠希くんの良さがわかんないんだから口出さないで。しっし」
お姉ちゃんはただのリア充高校生だから置いとくことにして、悠希くんの話をしないと。
悠希くんは、私たちの街出身の超人気子役。
橋川悠希。聞いたことある人いるでしょ?
とにかくイケメンだし、めちゃくちゃ優しいし(たぶん)、運動もできるし(きっと)、何より声がいい。
声が好き過ぎて、近くで話してるの聞いたら絶対気づく自信があるけど、でも私はまだ直接会ったことはない。同じ街に住んでるのになあ。芸能活動で忙しくて都心にいるのかな?
一回くらい会いたいなあ。
「夕菜〜」
「なあにお姉ちゃん」
今から悠希くんと偶然出会ったシチュを思い浮かべようとしてたのに。タイミングわるねえちゃんじゃん。
「このぬいぐるみ、あんたの?」
「いや、違う……ちょっと待って」
「ん?」
「それ、ゆめのぬいぐるみじゃない?」
「なにそれ」
「とにかく、それちょっと貸して!」
「ほい。どうぞ」
私はお姉ちゃんからぬいぐるみを受け取った。
そして最近学校でよく聞く「噂」を思い出す。
ゆめのぬいぐるみと言われるクマのぬいぐるみ。
この街の色んな小学生の家にランダムでワープしていると言われていて、ぬいぐるみに夢を話しかけると、その夢が叶うと言われている。
ま、ただの都市伝説だけどさ。
でも、見知らぬクマのぬいぐるみが突然家に現れたら、よぎっちゃうじゃん? そういうのって。
私は机の上にクマのぬいぐるみを置いてみた。
普通にありそうなクマのぬいぐるみ。
でも…なんか瞳に惹かれる。
黒い瞳。おそらくビー玉のような素材。
なんか……夢を語りたくなってきちゃう雰囲気。
だから私は、今描いてる夢を……クマのぬいぐるみに話してみた(ただの怪しい人)。
私は本が好きで、物語が好きで……書くのも好き。
だから、私は時々自由に物語を書いたりしてるんだけど……いつかそんな私が描いた物語の主人公を悠希くんに演じてもらうの。
いいでしょ。この夢。
ふふ。へへ。ふっふーへっへー。
悠希くんのポスターに目を向けたとき……
「あんた、ご飯の時間だけど」
「あ、うん! 今行くね!」
「よだれたらすくらいお腹空いてたの?」
「よだれ? た、たらしてないもん!」
はあ。お姉ちゃんに恥ずかしいとこ見られちゃった。まあ毎日のように見られてるけどね。
最初のコメントを投稿しよう!