魔術と憧れのサファイア

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魔術と憧れのサファイア

 演劇クラブっていうから、私は学芸会の練習のようなものを想像していた。  でも実際は違う。 「き、筋トレ?」 「そう。しっかりと声を出すために必要なんだ。まあ夕菜は脚本担当だから、その間に色々と僕が案内するよ」 「悠希くんは筋トレしないの?」 「筋トレは毎朝済ませてるんだ。それにランニングも五キロして、それからシャワーを浴びてから学校に来てる」 「すごっ」  お布団脱出大作戦を企てている私と違う世界だ。  あまりに完璧すぎるよ。 「さ、こっちきて、舞台裏へ行こう」  小ホールには小さな舞台があり、両側が舞台裏につながってるみたいだった。  なんかワクワクする。 「ここに、小道具とか衣装がしまってあるんだ」 「すごい……!」  衣装はカラフルで色々なものがあった。お姫様が着そうなドレス、大きな帽子、宇宙人になれそうな緑色の着ぐるみ…… 「魔法使いにだって怪獣にだってなれるからね。脚本も自由に書けると思うよ」 「う、うん!」 「あ、もし演劇クラブに入ってくれたらの話ね。入るかはもちろん夕菜が決めることだからね」  は、入りたい。  すっごく楽しそう。  だけど、なんだかそわっとした。  そんなに風通しの良くない舞台裏なはずなのに。  それからも舞台の照明の仕組みとか、舞台の上の狭い通路とか、色んなところを案内してもらった。  そして戻ると……へとへとになってる演劇クラブのメンバーたちが。 「おっ、お疲れ」  そう悠希くんが言うと、ぐでんっと脱力したままみんなが悠希くんを見た。 「疲れたよー。ちょっと休憩ね」 「休憩後何する?」 「新しく見にきてくれた人がいるし、リハーサルするのはどう?」 「めちゃくちゃいいね」 「てことで決まりだな。夕菜に入りたいって思ってもらえるようなリハーサルにできるように頑張るよ」 「ありがとうっ」  絶対すごいやつだ……。だってここにいる人たちは、小学生の頃からこうやって芸術や芸能を専門に活動してるんだもん。 「じゃあ始めまーす!」  司会の元気そうな女の子がそう言い…… 「これより、春の公演、『魔術と憧れのサファイア』を始めます」  一旦ホールが真っ暗になる。  私はパイプ椅子の脚を思わず握った。 「やあ、俺はリオ。村では落ちこぼれ扱いの少年さ」  でてきたのは悠希くん。  すごい。  何がすごいって、普段の悠希くんは完璧さしか感じないのに、今は本当に頼りない雰囲気が出ている。 「でも俺、一つだけ知ってることがあるんだ。それは……この村のどこかに、魔術を使いこなせる水色の石があるってこと。見た目はサファイアで、その石を見ると、誰もが絶対に憧れるらしい」  早速面白そうな展開……!  私は観客が自分だけなことなんて忘れて、物語の世界に取り込まれていった。  
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