映画

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 放課後、また悠希くんと二人でポスターの続きをした。 「二人で三枚ずつ、六枚できた」 「うん」  とりあえずこの六枚を、特に危険そうなところに貼りに行こうか」 「だね」  私と悠希くんは立ち上がった。  まずやってきたのは、体育館の前の坂道。  緩やかな坂道だけど、花びらが積もってたらいかにも滑りそうな雰囲気。  ゆっくりと歩く。  花びらの軽い感触が上履き越しでもわかる。  だんだんとその感触に慣れていって…… 「うわっ」  どててっ。  私が滑った。 「大丈夫?」 「うん、ありがとね……」  私は悠希くんのおかげですぐに立てた……  って、普通に悠希くんの手を握っちゃった! 自然と差し出すのが悪い!  ドキドキしてるってのに悠希くんは何も感じてなさそうで。それはちょっと残念かもって思うけど。 「体育館の入り口の扉に貼るのがよさそうかな」  悠希くんが提案した。 「うん、そうしよう」  私はテープを長めに切って、ポスターを扉にしっかり付けた。四つの辺を全部テープでおおう。それくらいしないとすぐにはがれちゃうからね。  その調子で、他のポスターも無事滑りやすそうなところにしっかり貼り付けられた。 「ひとまず、これで仕事はおしまいって感じかな?」 「そうだね、夕菜、転校してきたばかりなのにありがとう」 「ううん。楽しいし問題なし!」 「偉いなあ。あ、そうだ、夕菜を誘おうと思ってたんだけど……映画見に行かない? 一緒に」 「え、映画?」 悠希くんと二人で映画は……だいぶデートだよねそれ!  そしてなんと、学校の帰りにそのまま映画館へ……こんなダイナミックな寄り道、私初めてだよ。すごすぎる。  私も何度か行ったことのある地元の映画館。  ポップコーンと高級感の混ざった香り。 「色々と参考になりそうな映画を見ようと思ったんだ」 「悠希くんって勉強熱心なんだね」 「とか言ってもまあただ見たい映画があっただけなんだけど」 「ふふ」  ちょっと安心する私。なんとなくちょっとリラックス。 「何の映画にしようか?」 「悠希くんは何か見たいものある?」 「僕は……あれかな」 「ファンタジー?」 「そう。今、僕ファンタジーが好きなんだ。現実にありえないことが起きると、わくわくする」 「私もそう!」  そして何を隠そう、今の状況は「現実にはありえないこと」なのだ。  もし、ゆめのぬいぐるみがなかったら、私と悠希くんは出会ってなかった。  じゃあわくわくするよね? って言われたら、結構わくわくする。  でもわくわくだけじゃない気持ちも、一緒に混ざっている。  悠希くんと横並びに映画の座席をとった。  前すぎず後ろすぎずいい席。  映画が始まり、二人で分け合うことにしたちょっと大きめのポップコーンのカップ。  これは……やはりデート。  映画は2時間くらいで終わった。  ファンタジーってだけあって、現実がぽわっとしたままだ。 「面白かった?」 「うん! あと気づいたんだけど……悠希くん出てたよね?」 「バレた? ほんと、ちょこっと出てくる子供役だったのに、よく気づいたね」 「そりゃ気づくよ」  私は悠希くんのファン歴長いんだからね。  最近身近すぎてファンである自覚がうすくなりがちだけど 「あー、そういえば…夕菜って、ゆめのぬいぐるみの話って知ってる?」 「えっ、あ、あの、ゆめのぬいぐるみ?」  どうしてゆめのぬいぐるみの話が出てきたんだろう? 「夢を語ったら叶うなんて、魔法だよなあ。都市伝説にしては可愛らしい感じだし、一体誰が作って広めたのか」 「だよねー、魔法で不思議」  悠希くんは物語としてどう生まれたかを不思議がってるけど、私はゆめのぬいぐるみを実際に目の当たりにしちゃったから……ていうか使っちゃったから…… 「夕菜はさ、ゆめのぬいぐるみってあると思う?」 「えっ」 「いや、まあほんとにあるなんてことはないとは思うけどさ。でもあるかもってロマンを持ってるタイプかなって」 「悠希くんは、ちょっとあるかなって思ってるの?」 「まあね、だってその方が面白い。わくわくしてられるから」 「なるほど……」  私はなんで答えればいいんだろう?  あると思うどころか、かなりガッツリ信じてる。百聞は一見にしかずの見るの方だもんね。 「私はね……あるかなって思うよ」 「お!」 「なんならね、桜の花びらが降り続けてるのは、ゆめのぬいぐるみのせいじゃないかって思う」 「……それは、誰かが夢を語ったってこと?」 「そう。桜の花びらがずっと降るのを見たいっていう夢を誰かが持ってて、その人がゆめのぬいぐるみを使ったから……」  私の横の悠希くんの瞳は輝き出した。 「それ面白い! というかそれ真面目にあり得る」 「ほんとに真面目?」 「ほんとに真面目」  悠希くんのちょっと真剣な目を見つめて、それから笑いが起こった。  ポップコーンの匂いがどんどんなくなっていく。    そしてその悠希くんの笑顔が、私にこれからも向いてて欲しいって、思っちゃったんだ。    
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