在りし日の僕を追え!

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  確かにそうだった。先ほど記憶をたどっていた時、自宅を出てこの横断歩道まではすらすらと思い出せた。しかし、そこからいきなりこの部屋になるのだ。どんなに頭を絞ってもその間の空白は埋まらなかった。 「これは紛れもなく、あなたが俗世で見た最後の光景です。なぜならばーー」 天使は手首を振った。すると画面のカメラのアングルが反時計回りに90度回転した。それは生前の幸太の視野の外の光景だった。 「こんな近くにバイクが来てる……」 「はい。点滅し始めた青信号に慌て、走っていたあなたは突然バランス崩し、後方に転びそうになったところを、すぐ後ろを通過しようとしたこのバイクに不幸にも跳ね飛ばされました」   しばらく言葉を発しなかった幸太を見かねたのか天使が声を掛けてきた。 「いきなりこんなことを聞かされてショックでしょう。すみません」 「いや、正直ショックというか……実感もないし、ほかにも色々ありすぎて」  そこで、幸太はふと思い出した。 「そういえば、さっき復活がどうとか言ってなかった?」  ああ! と天使は両手を打ち鳴らし、幸太を見据えてくる。見た目がただの中年オヤジなので少し気味が悪い。  天使は力強く言った。 「不運な死に方をした人間には、一度だけ俗世に戻る、つまり、生き返るチャンスが与えられるのです!」
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