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「僕が不運な死に方? 交通事故って割とありふれてない?」
「あなたの直接的な死因は交通事故ではありませんよ。跳ね飛ばされた段階では気を失っただけで、まだ生きていました」
「そうなの?」
「はい。あなたは宙に放り出されました。バイクは横転。運転手を放り出し、横回転をしながら車道と歩道を隔てる段差に衝突。しかしそこで、奇跡が!」
天使のおしゃべりに熱が入る。講談師みたいだ。
「なんと! ぶつかった衝撃で体勢が変わり、バイクが再び自立走行を始めました! そしてもう一つの奇跡! あなたはそのバイクの座席に着地したのです!」
「おお!」
「しかし、幸運は長くは続きません。あなたを乗せたバイクはすぐに歩道にのりあげ、近くの工事現場のフェンスに激突。さらにあなたは地面に放り出されてしまいました」
「ああ、その衝撃で僕は死ーー」
天使は幸太に向かって手のひらを突き出してきた。幸太は押し黙る。
「引き取らないでください。まだです」
気を取り直すように一度間を置き、天使はまた語り始める。
「バイクが衝突したときの轟音に、高所で仕事をしていた作業員が驚いた弾みにトンカチを落としてしまったのです。そしてそれは地面に寝ていたあなたの頭に向かって綺麗な放物線を描きーー」
「ああ、それでーー」
「あなたの額にトンカチの柄が直撃してしまい、それがとどめとなりました」
柄の部分かよ!
「以上です。どうです? 不運だったでしょう?」
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