誰よりも早く、出勤したい。

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このように、全員から一目おかれている小池さんなので、彼の一番出勤を阻む者がいるはずがない。たとえ、彼の上長でさえ。普通、偉い人は遅れて出勤するものであるが、小池さんはなんでも「一番」が好きな性格のようである。 一番上手にチラシを制作する者。それは自分。 一番早くチラシを制作する者。それは自分。 一番に受付女子たちの苦労を慮れる者。それは自分。 たとえ出勤の順番に関してであっても、一番早く出勤する者に、小池さんはなりたいのである。 小池さんよりも早く出勤する奴は「無礼者」「恥知らず」であるとみなされ、それはこの職場の「暗黙のルール」となっているのだった。 ところが、このルールを破る無礼者があらわれた。 中途入社し、先日制作研修を終えたばかりの上野さん(25歳・女性)である。 「8:33 上野です。おはようございます。」 最初このメッセを見た時、みな、目を疑った。馬鹿者が。小池さんよりも前に出勤するやつがあるか。しかし当の小池さんは気にする様子はなく、いつも通り8時35分に出勤してきた。そりゃそうだ、小池さんはこんなことを気にするような子供ではないのだ。 上野さんは明るくて元気ないい子だが、おっちょこちょいなのが玉にキズである。 「わからなかったら人に訊いたらいいよね!」 との方針らしく、まず自分で調べるということをあまりしない。
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