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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」13
今回の人事と杉田さんについてだ。
部長以下三人が関与していたという。
部長が会社のお金で先物取引に手を出し、失敗をして赤字を作った。補填するために、新しく創設される部に目をつけたのが発端だ。
PR事業の費用をある会社に発注する。費用の一部を搾取し、本来なら直接発注する会社へ丸投げをする。搾取した代金を赤字の補填に回した。高額な資金は目立つから発注回数を増やして、こつこつと搾取を繰り返す。そのためには息のかかった部下が必要だ。部長は融通が利く西崎さんに目をつけた。
問題となるのは杉田さんの存在だ。
思いのポストを手に入れるには杉田さんが邪魔になる。杉田さんを蹴落とすために怪文書を流し、真実の裏をとることもなく、強引に濡れ衣を着せることになる。
部長が中途半端な状況のまま決断を下した。
そんなちんけな理由で人を落とし入れるとは怒りが頭にのぼりつめる。
驚いたのはそれだけではない。悪意の噂を仕掛けたのは、杉田さんと同期の西崎さんだということだ。
確か、杉田さんは西崎さんを少なからず信頼していたはずだ。
あのとき、不本意なとばっちりに巻き込まれた西崎さんを心配していたからだ。
しかし、底意はそんなきれい事ではない。根の深いねたみの事実が浮き彫りにされた。
二人は平成七年に同期入社した。若かりし頃はよく一緒に飲みに行ったらしい。ライバルというよりは、互いに励まし合い、困難を乗り越えた仲間意識の方が強かった。
平成一〇年に元妻が入社する。彼らとは四歳下になる。三人で飲みに行くことも度々あったという。
西崎さんはほのかに恋心を抱き、行動を共にすることに胸をときめかせた。二年間はこの上もなく幸せな気分を感じていたという。誘えば二つ返事で参加する。彼女は自分のことを満更悪いようには思っていない。いや、もしかすると自分のことを気に入ってくれているのかもと期待に胸を躍らせていた。
しかし、ある日、二人が結婚することを知り、屈辱を味わったという。
友情関係はから一転して敵対関係に変化する。
どうして俺じゃないんだ。俺の方が仕事ができる。将来的には俺の方があいつより有望だ。なのにどうして。しかし、西崎さんは胸の奥に忍ばせた妬みと恨みを表に出さなかった。周りの身近な人間よりも、杉田さんだけをライバル視し、なにかにつけて競争心を抱き続けた。
杉田さんは西崎さんが自分に対して根深い恨みを抱いているとは露程も疑っていなかった。事件の真相はすぐにばれるような浅はかな行いだ。
しかし、西崎さんは虎視眈々と狙っていた。杉田さんをつぶすせるチャンスを逃すことはなかった。あわよくば噂が原因で離婚すればいいとまで思っていたそうだ。
西崎さんは詭道な手段で望むポストを手に入れた。
限りない嫉妬心を持ち続けた西崎さんの思惑は結果的に叶うことになる。
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