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三 「君がそこまで言うのなら」36
杉田さんが一息入れて私に視線を合わせた。どきりとするほど澄んだ目をしている。私は杉田さんから目をそらすことができなかった。
「最後に、彼女について、あなたが一番聞きたかったことに答えしましょう」
杉田さんが自らQ&A形式で続けて口にした。
「大切な人ですか、イエスです」
「大事な人ですか、イエスです」
「好きですか、イエスです」
「愛していますか、イエスです」
「結婚したいですか、それはノーですね」
「この意味がわかりますか、あなたにはわかりにくいかもしれません。理解に苦しむでしょう。なぜなら、彼女は私の家族だからです。彼女のことは、いつでも守ってあげたいという気持ちを持ち続けていますが、彼女が今なにをしているのかな。といった感情で思い出すことはありません。こんな気持ちは変ですか。彼女からなにも連絡が無ければ、それは安心なのです。便りがないのはよい便りと言うでしょ」
私はそこで杉田さんに問い返した。
「本当にそれでいいのでしょうか。彼女はもっと望んだ気持ちを抱いているかもしれませんよ」
「そうじゃないんだ。では、あなたに聞きますが、家族の笑顔って、良いと思わないですか」
私は同意してうなずく。
「だから彼女には笑っていてほしいんだ。そのために支えたい。恋愛とは違う感情なんです。もっと大切な想い。尊い感情なんですよ」
「でも、異性に対して愛しているという気持ちがあるのなら」
「異性であっても、恋人なら別れが来るときもあるでしょ。でもね、家族は別れないんです。血ではなく、魂でつながっている家族は、永遠に別れないんです。懐かしさを感じただけでなく、魂が共鳴する。心が響く魂の家族なんですよ」
その後はなにごともなく過ごせていたのか、と私は訊いた。
杉田さんは冷静に当時を振り返った。
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