一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」11

1/1

85人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ

一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」11

 約束の土曜日、私はお昼を過ぎてから彼女のアパートへ向かった。  途中でお土産を買うことにした。訪問の約束をしているとはいえ、彼女の気分次第では短時間で追い出されるケースも想定できる。気まずくなったときはケーキでも食べて場を和ませたい。まっ、追い出されるときは、なにをしてもたたき出される羽目になるんだろうけど。とにかく、彼女とゆっくり話せるようにとケーキを買って足を速めた。  私は入り口の前で緊張しながらドアをノックした。  部屋の中からどうにか聞き取れるような返事が聞こえた。  彼女はトレーナー姿で現れた。会う時間を取っていただいたことにお礼を述べて中へ入らせていただいた。  部屋の間取りは入り口の左側にキッチンと左奥にバスとトイレがあり、正面は六畳間の部屋が見える。部屋には二人用のこたつと四段のタンスが置かれていた。タンスの上には出入り業者のPR卓上カレンダーが置かれているだけ。他に部屋を飾っている物はなにもない。質素倹約をして暮らしているとしても、あまりにも物がなさ過ぎる。  女性としての生活感が希薄(きはく)に思えた。  こちらへどうぞ。と誘導されたこたつの前に、ひとつの座布団が置かれてある。彼女の座る場所には座布団がない。  私だけ。私が戸惑っていると、 「私の部屋には訪ねてくる人などいませんから、不必要な贅沢はしていません。どうぞ気兼ねなくお座りください」と淡々(たんたん)とした口調で言って、彼女が私の正面に正座をして向き合った。私も同じように姿勢を整えた。  私はお土産に買ってきたケーキを差し出した。  彼女はケーキを見て、とても驚き、 「こんな高価な物はいただけません」  彼女がかたくなに拒否をした。 「生ものですし、二人で食べようと思って買ってきた物ですから、捨てるのももったいないので、二人で食べながら話をしませんか」  私が穏やかに説得をすれば、彼女はようやく納得してくれた。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加