四 「一緒にいられることが楽しい」5

1/1
前へ
/185ページ
次へ

四 「一緒にいられることが楽しい」5

 彼女は彼の誘いを受けるのか断るのか迷っていた矢先に、炊事場である噂を耳にする。  その日の晩、彼女は杉田さんに相談をした。 「彼は社交的で明るく活発な性格だが、女癖が悪く、つきあいが長続きしないらしいのです。評判が悪いことを耳にしました」 「評判が悪いのは僕たちも同じですね。第三者の噂がすべてではないでしょ。偏見が多いと思いますが。それはあなたが一番よく知っていることだと思います。他人の評価より、まず、あなたがどう思っているのかが大事なのでは。あなたの印象が第一でしょ。彼はあなたの悪口を言ったのでしょうか。あなたを批判しましたか。あなたに怒りをぶつけましたか。他人ではなく、あなたになにをしたかが一番大事で、彼の発言、彼の行動、彼の好意を、あなたがどう思うのかではなでしょうか。ゆっくり考えてください。あなたに対して、彼に誠実さがあれば、少しくらい返事が遅れても、あなたにかわいさ余って憎さ百倍とはならないでしょう。あなたのことを心から大事に思っている人なら、いつまでも待てるはずですよ」 「わかりました。でも、もし、だめな人なら責任を取ってくれますか」  彼女は杉田さんに意地悪をして、追い込むような質問をした。 「きつい質問をしますね。あなたはおもしろい人だ。それで、答えですが、責任は取れません。最終的にはあなたが決めたことになりますよ。お互い、人を見る目がなかった。まだまだ人間勉強が浅いと反省しましょう。まっ、いきなりハードなつきあいをする必要もないでしょう」  彼女は「ハードなつきあい」という言葉を見て赤面したという。 「そこまで考えていません。」とメールを送ろうとしたが、それもかえって恥ずかしいと思い直し、メールを削除したらしい。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加