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四 「一緒にいられることが楽しい」7
ある日、彼が彼女に問いかけてきた。
「あなたからは、何事にも動じることなく、威風堂々としたオーラを感じます。どうしてそんな風に胸を張って生きられるのですか」
彼女は思いもしなかった自分の印象に驚いて、数歩後ずさり、彼と距離を取りながら訊ねた。
「私、そんなに威張っているように見えているのですか」
彼は私の勘違いを丁寧に訂正してくれました。
「逃げないでください。僕は威張っているという意味で言ったのではありません。思っていることを正確に伝えられなくてすみません。なんと言えばいいのだろう。人目を気にしていないというか、他人の印象など我関せず焉とでも言えばいいのか、第三者が自分をどんな評価をしていようがかまわないと言った感じで、背筋をピンと張って生きているような、そんな感じです」
いまいち理解しきれず、自分の思うことを伝えた。
「すみません。なにを言われているのか、しっかり理解できていません。答えになっていないかもしれませんが、私は、がんばったかどうか、自分に対する評価しかしません。自己評価のみです。他人の評価は低いから気にするだけ疲れます。心につながりのない人の評価を気にするのはとても疲れます。気にしたところでどうにもなりません。ふれあいのない人にどう思われていようが、どうこうしようという気にもなりません。無駄なことを考えると自分の気持ちがすり減るだけです。聞き流す方が楽です。あくまでも私の生き方ですが。これで答えになっていますか」
「答えになっています。今までの僕は周りからどう見られているのかを気にしすぎて、疲れていたことに気づきました。ありがとうございます。ほっとしました。今日はぶしつけな質問をして申し訳ありません。あなたにはなぜか懐かしい人に出会ったような印象を受けたものですから、甘えてしまったのかもしれません。でも、思ったことを正直に言ってもらえてうれしかったです」
彼は彼女の笑顔を見て、続けて本心を伝えた。
「自分の考えが伝わる人がここにいた。やっとジレンマの心が晴れました。三田さんの言うとおり、立前やうわべの社交辞令的な言葉を伝えるよりも、正直に思ったことを伝えて嫌われたならしょうがない。最初に無理して気を遣えば、次からもさらに気を遣わなければならなくなる。この年になって無理をして生きる気にはなれない。今更、好印象のイメージを取り繕う必要もない。開き直って自然体でいられる自分を保つ。それでも認めてくれる人がいたなら、そこに小さくても自分の居場所ができる。杉田さんがそうであったように。僕に居場所ができる。もっと、どしっと構えた男になります」
彼女は彼の返事を聞いて、うれしく思ったそうだ。
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