四 「一緒にいられることが楽しい」8

1/1
前へ
/185ページ
次へ

四 「一緒にいられることが楽しい」8

 彼女がインフルエンザで会社を休んだ。  彼からすぐに連絡が入った。 「身体の調子はどうですか。熱はどうですか。病院に行きましたか。食事はちゃんととれていますか。水分補給はできていますか」 「ごめんなさい。身体がだるいので、お話につきあえません」  彼女は携帯の電源を切ってそのまま寝入ってしまった。  お昼過ぎのこと、ドアを叩く音で彼女は目が覚めた。ふらふらした足取りで玄関に近づく。彼の声がした。彼女は咳き込みながらドア越しに訊ねた。彼は心配だから来たという。どうして住所がわかったのかの問いには、職場の住所録を確認したらしい。女性の部屋に何の連絡もなしに訪ねるのは失礼だと伝え、彼女が咳き込んだ。彼は、電話が切れ、あとはつながらなかったからと言い訳をする。買い物をしてきたので、入り口に置いていきます。お大事に。と伝えて彼はすぐに帰った。  彼女が数秒後にドアを開けると、横に買い物袋が残されていた。袋を拾い上げて、ドアを閉めた。袋の中から品物を取り出した。おかゆシリーズなどのレトルト食品、栄養剤ドリンク、水分補給用のスポーツドリンク、ゼリーの栄養剤などが入っていた。  病気のときは食欲が落ちる。固形物は喉越しが悪い。食べるにしても体力が必要だ。身体が疲れて脂っこい物は食べる気がしない。ふらふらして立ち上がることもままならないのに買い物など行けない。おかゆならば喉越しがよく、食欲も出てくる。病人の気持ちがわかっている。ありがたい物をプレゼントしてくれたと感謝した。彼女はたまご入りのおかゆを温めて食べた。スポーツドリンクで水分を補給して、栄養剤を飲んで、身体を休めた。  二日間ゆっくり休んで熱は引いたけれど、ときたま咳が出る。マスクをして出勤することはできるが、同僚にうつしたりすると、かえって迷惑をかけてしまう。無理をしないことが大事。今日、あと一日休めば、金曜、土曜、日曜と三日間休める。完全に治してから出社する方がいいと考え、会社に連絡をして休暇をとった。  翌日になり、起き上がるのも楽になった。  お昼過ぎのこと、宅配便が届いた。差出人は彼だ。中を開けてみると、また同じように買い物が詰め込まれていた。助かると思う反面、ここまでしてくれなくてもと困惑した。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加