四 「一緒にいられることが楽しい」9

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四 「一緒にいられることが楽しい」9

 勤務時間が過ぎた頃、彼女は彼に電話を入れた。まず、お礼を言って、ここまで気を遣ってもらうのは気がとがめると伝えた。 「僕がそうしたいと望んでしたことですから気にしないでください。もし押しつけになっていたのなら申し訳ありません。もう二度としませんので安心してください」  彼女は押しつけだとは思っていない。外に出られない状態なので、うれしかったし、助かりましたと伝えた。 「先日は突然訪問してすみません。女性の部屋にいきなり男性が訪ねるのは失礼な行為だと反省しました。変な噂が立てばあなたに迷惑をかけてしまうので、今回は、宅急便にしました。あの、僕はストーカーではありませんから」と彼は笑って言った。  彼女はくすっと笑い、「どうお礼を言っていいのか」と言いかけた。 「貸しだとか思っていませんから。あなたが僕の行為を気にするなら、僕が忙しいときには仕事で助けてください。それから、もし、僕が無理をしていると気づいたときは止めてください。お願いします。じゃあ、あまり長話をすると身体に悪いですからこれで切ります。お大事に」  彼は自分の伝えたいことを言って電話を切った。  彼女はお見舞いと差し入れについて杉田さんに報告した。 「先日、インフルエンザで会社を休みました」とメールを送った。杉田さんは彼女の身体を心配したメールを返す。 「もう治りました」と彼女のメール文が始まる。 「それは大丈夫ですが、休んでいるときに、会社の方が、男性の方が突然お見舞いに来ました。病気で休んでいる女性の部屋になんの連絡もなく、急に訪ねてくるのは失礼だとは思いませんか」 「それは失礼な行為だと思いますが」  杉田さんは男性の行為についていくつか確認をする。訪問の前に電話連絡があったことがわかってくる。 「あなたがなにも食べず、動くこともできず、寝ているだけの状態を心配しての行為だと思います。連絡を取ろうにも電源が切られていることで、彼はどうすることもできなかった。しかし、あなたの身体を心配する気持ちが先にでたのでしょう。失礼な行為は理解できるが、それ以上にあなたのことを思ってのことだと思います。無理矢理部屋に入る行為はしなかったようですし、あなたが迷惑に思う気持ちを察したあとは、宅配便に切り替えて、必需品、食料などを手配した。彼の行為はぶしつけではない気がします。しかしながら、昨今、男が思いを寄せる女性に対して、思い通りにいかないことからいろいろ事件などが起きていますから、今後、予期せぬ行動が起きた場合は、すぐに連絡をください。私がなんとかします」  彼女は杉田さんの気持ちを受け取り一安心したという。
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