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四 「一緒にいられることが楽しい」13
さて、ひとつの取っ掛かりを見つけたものの、彼の情報を収集する術がない。
私は神崎さんについて、課長に訊ねるべきか、伏せるべきか、迷っていた。公的な報告事項と私的な情報をどこで区切り、どこまで話していいものか。彼の名前を出して履歴書的な経歴を調べてもらうことはたやすいだろう。しかし、彼について訊けば、必ず理由を聞かれることになる。できれば彼女に迷惑をかけないようにしたい。判断を誤りたくない。しかし、他に情報を得る道がない。
私は課長のもとへ行き、彼の名前を口にした。
「ちょっと関係ない話ですが、神崎章吾さんて、どんな人ですか」
「なんだね急に。今回のこととなにか関係でもあるのか」
そう来ると思った。
「いえ、関係はありませんが、いろいろ情報収集しているときに、神崎さんの名前も飛び出したりして、どんな人か興味を持ったものですから」
「吉野君、自分の趣味で情報収集しないでくれよ」
「いえ、そんなことはしてません。すみません忘れてください」
「そうか。それならいが。神崎君は、一言で言えば『天涯孤独』な男だ」
私は「天涯孤独」の言葉に引っかかった。なにか二人と似ている気がした。
「天涯孤独とはどういう意味ですか」
「ご両親を事故で亡くして身寄りもなく、今は一人だということだ。確か年齢は三十三歳くらいだろう。そういえば、去年は三田さんと同じ職場に一年間一緒にいたな。それ以上のことは知らない」
私の興味は俄然湧いてきた。炊事場で二人の関係が噂になりかけたが、あまりにもタイプが違いすぎるため、ガセネタとして一掃された噂に火がついた。彼女との接点を見つけた。年齢は彼女より三つ年下だ。互いのタイプだけではない。年齢的なこともガセネタとして位置づけた根拠になったのだろう。でも、これ以上課長にしつこく訊くことはできない。私はすぐさまその場を離れた。
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