四 「一緒にいられることが楽しい」14

1/1
前へ
/185ページ
次へ

四 「一緒にいられることが楽しい」14

 ある日のこと、男性から私に電話がきた。電話機を見れば内線の赤いランプが点いていた。 「もしもし、企画総務課の吉野です」電話を受けた。 「あなたが吉野さんですか」相手が私の名を確認する。 「ご用件は」の応対に、「用件はそちらにあるのでは」と敵対心を持っている感じで、相手は私を刃で貫くような口調で意味不明な言葉を投げつけた。  一瞬、クレーマーかもしれないと脳裏をよぎった。 「今、私どもが電話を受けたのですが」 「やはり、勘の鈍い人だ」  いきなり失礼な人だ。なんなのよこの人は。この忙しいときに、相手にしたくない。 「僕は神崎章吾と申します。あなたが僕のことを嗅ぎ回っていると小耳に挟んだのですが、間違いですか」  げっ、直接、本人から電話をしてきた。抗議かもしれない。文句を言いに来たのだ。しかし、なんの確証も得ていない今、正直に認めるわけにはいかない。 「嗅ぎ回るとは、失礼な言い方だと思いますが、なにかの間違いではありませんか」 「なるほど、意外と勝ち気な人なんですね」  かちんときた。頭に血がのぼる。 「あの、どういうご用件でしょうか」 「だから、用件はそちらにあるのでは、と僕が訊いているんですよ」 「用件と言われましても」 「そうですか。まだ(しら)を切るつもりですか。わかりました。それなら、三田さんにはこれ以上近づかないでください。いいですね」  彼女の名前が飛び出してどきりとした。間違いない。私が確かめたいと思っていた相手からの電話だ。このビッグチャンスを逃したくはない。 「ちょっと待ってください。あの、神崎さんですよね。失礼しました。あの、その、職場でもありますし、電話ではなんですから、会ってお話をおうかがいすることはできないでしょうか」  私はしどろもどろになりながら会話を続けた。 「やっと理解できたようですね。そのために僕からあなたに電話をしたのですからけっこうですよ」  なにを話しても上から目線でしゃべるやつだ。いちいち腹が立つ。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加