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四 「一緒にいられることが楽しい」14
ある日のこと、男性から私に電話がきた。電話機を見れば内線の赤いランプが点いていた。
「もしもし、企画総務課の吉野です」電話を受けた。
「あなたが吉野さんですか」相手が私の名を確認する。
「ご用件は」の応対に、「用件はそちらにあるのでは」と敵対心を持っている感じで、相手は私を刃で貫くような口調で意味不明な言葉を投げつけた。
一瞬、クレーマーかもしれないと脳裏をよぎった。
「今、私どもが電話を受けたのですが」
「やはり、勘の鈍い人だ」
いきなり失礼な人だ。なんなのよこの人は。この忙しいときに、相手にしたくない。
「僕は神崎章吾と申します。あなたが僕のことを嗅ぎ回っていると小耳に挟んだのですが、間違いですか」
げっ、直接、本人から電話をしてきた。抗議かもしれない。文句を言いに来たのだ。しかし、なんの確証も得ていない今、正直に認めるわけにはいかない。
「嗅ぎ回るとは、失礼な言い方だと思いますが、なにかの間違いではありませんか」
「なるほど、意外と勝ち気な人なんですね」
かちんときた。頭に血がのぼる。
「あの、どういうご用件でしょうか」
「だから、用件はそちらにあるのでは、と僕が訊いているんですよ」
「用件と言われましても」
「そうですか。まだ白を切るつもりですか。わかりました。それなら、三田さんにはこれ以上近づかないでください。いいですね」
彼女の名前が飛び出してどきりとした。間違いない。私が確かめたいと思っていた相手からの電話だ。このビッグチャンスを逃したくはない。
「ちょっと待ってください。あの、神崎さんですよね。失礼しました。あの、その、職場でもありますし、電話ではなんですから、会ってお話をおうかがいすることはできないでしょうか」
私はしどろもどろになりながら会話を続けた。
「やっと理解できたようですね。そのために僕からあなたに電話をしたのですからけっこうですよ」
なにを話しても上から目線でしゃべるやつだ。いちいち腹が立つ。
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