四 「一緒にいられることが楽しい」15

1/1
前へ
/185ページ
次へ

四 「一緒にいられることが楽しい」15

 私は極力冷静を保ちながら二人で会う約束を取り付けた。  彼からの電話を切ってもしばらく苛立ちは消せなかった。  今晩、彼と会って話をする。待ち合わせ場所は退社時間になれば彼から連絡が入る約束だ。  彼は社交的で性格が明るい。それなりにモテるタイプ。会話の中に笑いをうまく取り入れ、場を和ます空気を作る才能が抜群にある。経験の豊かさゆえ、女性に対して心が広い。とも聞いた。  彼は彼女を作るのに不自由していない。なのに、服装にしても、性格にしても、地味で暗い存在の彼女に恋をした。  彼の周りには女性が沢山いる。女癖が悪かった。派手なつきあいをしていた噂も聞いた。  数ある女性の中で、どうして彼女を選んだのか。ほんとうに彼女にとっていい人なのか疑問だ。  彼が、彼女に気持ちが傾いた理由はなに。  違うタイプの女性が、彼にとって物珍しさの興味本位で遊んでいるのかも。もし不誠実な気持ちで彼女とつきあっているのなら許せない。  しかし、ろくでもない男なら、杉田さんがとっくに彼女を遠ざけているはずだとも考えられる。  わからない。私はどきどきしたり、もやもやしたり、わくわくしたり、じりじりしたり、気持ちが定まらず、仕事に集中できなかった
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加