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四 「一緒にいられることが楽しい」16
六時過ぎに彼から電話が入った。指定されたお店に向かった。
お店に入るとジャズが流れていて、ショットバー的な雰囲気が漂う。
カウンター席に一人の男性が座っていた。彼だ。彼が振り返り、私を呼び寄せる。私は彼の左隣に腰を落ち着かせた。正面の棚には沢山のお酒が並べられている。まだなにも食べていないのにいきなり飲むの。こんなことならサンドイッチでも買って底入れをしてくればよかった。
「今日は時間をとっていただきありがとうございます」
私はあいさつ代わりにお礼を先に言った。
「かたいあいさつは抜きにして、まずはなにか食べてください。まだなにも食べてないですよね。ここは、ハンバーグも、パスタも、ピザも、なんでもおいしいですから好きなものを注文してください。それともアルコールの方がいいですか」
なに、この軽さというか、なれなれしさというか、明るさは。電話の声とまったく違うじゃない。このギャップに巷の女は惹かれるのか。
「お腹が空いてると、人は邪推するものですよ。なにか食べて落ち着いてから話をしませんか。あなたを酔わせてどうこうするつもりはありませんから」
図星だ。私の胸の奥を見透かしている。
社交的な男。という言葉が浮かんだ。
「マスター、今日のおすすめは」
「なんでもおすすめですよ。常連の神崎さんは知ってるでしょ」
「じゃあ、ハンバーグ、ピザ、パスタはトマト味で。飲み物はなにがいいですか」
私は急に注文をふられて、すぐには返事ができなかった。
「では、ビールで」
彼はビールを二つ注文した。すぐに飲み物が出され、乾杯をする。
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