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四 「一緒にいられることが楽しい」17
彼は淡々と話し始めた。
「最初に言っておきますが、あなたがどれだけ調べても真実にはたどり着けませんよ」
意外な言葉だ。
彼は私のなにを知っているというのだろう。私の使命は会長直々の申し出だ。課長以外は誰も知る由もない秘密なのに。
「あの、どうしてですか。というか、なにをですか」
「ここまできてお互いしらばっくれるのはよしましょうよ」
私は口ごもった。
「案外、口の堅い人なんですね。僕からしゃべらなければなにも話さないつもりですか。それならなにも聞き出せませんよ」
「いえ、そういうつもりは」
「ふっ、それでも僕はいいですけど」と彼が笑った。
いえいえ、それは私が困るんです。なんてことは言えない。私は少しうつむいてしまった。
「とにかく腹ごしらえをしましょう」
彼はそう言ってビールをおかわりした。しばらくして注文した食事が出てきた。どれもおいしかった。
「ここのマスターは有名なイタリア料理店でシェフをしていたんですよ。だから料理は一流仕込みなんです。満足いただけましたか」
「それはもう、おいしかったです」
「では、本格的にアルコールタイムといきましょうか。告白にはアルコールが最適ですからね。口も気持ちもなめらかになる。あなたはなにを飲みますか」
「カシスをベースにしたものを」
「炭酸で割ると飲みやすいですよ。僕はスコッチをロックで」
飲み物を口にして話題を戻す。彼は、私には真実にたどり着けないからもう止めたらどうですか。とまた同じことを言った。
「あなたの立場では、あきらめるなんてとても無理ですよね」とも付け加えた。
彼は私になにを知りたいのかと訊ねてくる。
「差し支えがなければ、生い立ちからの話を聞かせていただけると幸いです」
「なるほど。あなたのパターンですね。わかりました」
彼は履歴を静かに語り始めた。
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