四 「一緒にいられることが楽しい」21

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四 「一緒にいられることが楽しい」21

「女性とのつきあいが派手だ。と僕の噂を聞いたでしょ」  彼が私に問いかけてきた。私は正直にうなずいた。 「遊びのつもりで女性を誘ったことは一度もありません。この人かも、この人なら、今度こそ。いつも真剣に探していました。僕は心の居場所がほしかった」  しかし、華やかな世界では虚構(きょこう)が多い。と彼は言った。作り続ける表の世界と内に(すご)む欲望の裏の世界。見せかけの部分が否でも応でも見えてくるようになりました。もっと鈍い、鈍感になれる人がうらやましかった。会社の名前、ポスト、担当、人間本来の価値からかけ離れた部分で人が寄ってくる。僕が一人の人間になったら、きっと離れてしまうのだろうな。と伝わる味の悪さ。(ぼく)本来(ほんらい)のことには興味などなくて、僕の仕事や会社名に魅力を感じている。  社交の場は疲れます。社交辞令は大嫌い。本音がほしい。自分というものをしっかり持っている女性に会うことはありませんでした。二人で歩くのではなく、寄りかかって歩くような思いを持っている女性ばかりでした。それは寄り添うのとは違うだろうと思いながら、女性に対する僕の気持ちは冷めていきました。常に弱音を吐く人は嫌いです。甘え、頼るだけの女性には好意が持てない。いつも求めるだけの女性は苦手です。その部分を知った途端に女性から一歩引いてしまう。そばにいることが怖くなるのです。家族を失う恐怖がよみがえるような感覚です。僕のねじ曲がった性格を理解してもらうのは難しいと思います。  僕が自分の性格に疲れを感じ始めた頃、彼女と出会ったのです。いつも自然体でいる人と出会いました。僕にとっては奇跡の女性です。それが彼女です。彼女は、自分からはほとんどしゃべりませんが、よく人を見ている女性だと思いました。
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