四 「一緒にいられることが楽しい」22

1/1
前へ
/185ページ
次へ

四 「一緒にいられることが楽しい」22

 いくつかの仕事が重なって、二進(にっち)三進(さっち)もいかなくなったとき、爆発しそうになったときのことです。  彼女は絶妙のタイミングで、 「無理することはないですよ。大丈夫です。あなたの思いは相手にも伝わっています。あなたの思いを()かそうと相手は試行錯誤(しこうさくご)を繰り返しているのです。だからもう少し待ってあげましょう。必ず、答えが返ってきますから。今は相手の努力を信じて、()かさずに待つ時間(とき)です」  彼女の言うとおりでした。  数日後に、物事が好転しました。がまんしてくれてありがとう。と相手から言われました。待つことで感謝をされたのです。  また、相手の行動があまりにも遅くて手際が悪かったとき、怒りそうになったのですが、そのときも、 「相手に頼まなければ進まない仕事でしょ。同じ頼むのなら叱って鞭を打つより、快い対応でお願いをする方が、相手だって気持ちよく取り組めるものですよ。相手が動かなければどうにもならないことでしょ。どうしても気になるのなら、お忙しいのに申し訳ありませんが、あの件はどうでしょうか。どんな感じでしょうか。と訊ねれば、相手も遅れていることを申し訳なく思ってがんばってくれます。逆に、まだか、とか怒って言えば、相手は、こっちも忙しい中でやっているのにと、不満を持ちながら仕事をすることになります。効率が悪くなります。底意地の悪い人ならわざと遅らす人もいます。お互い、気の持ちようで、丁寧にお願いをする方が、いい結果が生まれます。仕事で関わり合うのはこれっきりではないですから」  それもそうだと思いました。いくら仕事だからと言っても、他の職場の人や上司に叱られながら嫌な気持ちになってするよりも、にこやかにお願いをされた方が誰だって気分がいいですもんね。僕だって、怒られてする仕事は、「今、やってるでしょ。そう簡単にいくかよ」って、愚痴(ぐち)りたくなります。自分をかえりみて、身につまされた思いでした。彼女に言われて初めて気づかされたエピソードです。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加