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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」13
これほど質素な生活をしているにも変わらず、まだお金に困っている様子がうかがえる。
私は思いきって訊ねた。
「職場の飲み会や私的な行事はあまり参加していないようですね」
彼女はケーキに目を向けたままの姿勢で返答した。
「あまりではなく、ほとんどありませんよ」
あっ、失礼な訊ね方だと思った瞬間、彼女が続けて、
「たぶん私のことを誰かに聞いてからこちらにいらしたんですよね。私の評判が良くないと認識できたのではないですか」
私は一瞬言葉を詰まらせたが、ここで嘘をつけばすぐに見破られ、印象が悪くなると考え、「付き合いが悪かったと聞いています」と正直に打ち明けた。
「そんなことは百も承知です」と彼女が強く言ったあと、「他にも悪口くらいは言ってたと想像はつきます」とも言った。
「なんとも思っていないんですか」と私は彼女の推測を肯定する聞き方をしてしまい、まずいと思って一瞬目をそらした。
「他人の悪口を言っている軽薄な人のことなど考えたくはありません。どうにもならないことを考えても時間がもったいないですから」
彼女は動じない表情で言った。彼女は一呼吸入れて続けた。
「それに他人を悪く言えば、いつか災いとなって自分に戻ってきます。だから自分のためにも何も言わないようにしています。悪いことを考えるより、忘れるようにする方が楽に生きられると思いませんか」
と言った彼女が、一瞬、ほんの一瞬だけ視線を落としたように見えた。
「強い人ですね」と私が言えば、「そんなことはありません。必死に生きているだけです」と彼女が私の言葉を訂正するように言い直した。
このとき私は、彼女が自分という人間をちゃんと持っている人だと感じた。
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