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四 「一緒にいられることが楽しい」26
ベッドの中で目を覚ました美智子さんが杉田さんに涙を浮かべて言ったそうです。
「お前には、見栄えばかりを気にする女より、こんな優しい気遣いのできる人が似合うんだよ」
「ばあちゃん、そういうんじゃないから。彼女に悪いよ」
「選び間違えたり、選びそこなったり、大切な人ならちゃんとつかまえときな。ほんとにこの子は、なにをやつてんだか」
「ばあちゃん、勘弁してよ。もうそれ以上は言わないでくれ」
「じゃあ、この子はあたしがもらっていいかい」
「もらって、って、彼女はものじゃないよ」
「こんな気立てのいい子は、あたしの娘にする。文句あるかい」
「文句はないけど、彼女の気持ちもあるんだぜ。ばあちゃんのわがままは通らないよ」
「じゃあ、高齢の祖母に孤独死でもしろって言うのかい」
「そんなことは言ってないよ。なんでも勝手に決めちゃだめでしょ。相手の気持ちもあるんだからさ」
「老い先短い年寄りのわがままくらいきいてくれたって、罰はあたらないだろ」
そこで彼女が二人の会話に割って入った。
「あの、私ならとてもうれしいですけど」
「ほらみな。彼女はちゃんとわかっているじゃないか」
「もう、ばあちゃんたら。ごめんね、三田さん。迷惑にならない程度でいいから」
「なに言ってんだい。わかってないのはお前だよ。あたしたちは気が合うんだよ。ねえ、祥子ちゃん」
彼女がにっこり笑うと、病室で笑い声が響いたそうです。
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