四 「一緒にいられることが楽しい」27

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四 「一緒にいられることが楽しい」27

 美智子さんが退院してから彼女は定期的に家を訪問しています。  彼女は美智子さんに料理を教えてもらったり、編み物を教わったり、落語を聞いたり、二人でテレビを観ながら笑い合ったり、ふれあいを堪能(たんのう)しているんです。  トントントン、包丁の音がとても快く、安心できる笑みが絶えないと彼女は言います。お味噌汁はだしを取ってから作る。筑前煮や肉じゃがや美智子さん秘伝のナポリタンなどの料理方法を習う。漬け物の漬け方までそばで教えてもらう。二人で食事をする時間が楽しいと言っていました。母や祖母から家庭の味を受け継いでいく。昭和の家族ですよ。  趣味的には編み物も教えてもらっています。編み上げていく時間が家庭的な温もりを作り上げていく作業に似ています。  夕方になれば散歩に出かけたり、スーパーまで買い物に出かけたり、カラオケに行ったこともあると聞いています。美智子さんはアカペラで唄うそうです。カラオケのリズムにうまくのれないということなので。  ほんとにあの人には「ハイカラ」という言葉がよく似合います。  最近では土曜日になると美智子さんの家に泊まりがけで行ってます。  彼女にとっての、至福(しふく)の時間、(いこ)いの場、(いや)やしの空間です。  彼女のふるさとは美智子さんの中にあるんです。  だから、僕はできるだけ邪魔をしないように心がけています。彼女にも大切な人間関係がありますからね。なにもかも束縛するようなことはしたくないんです。彼女の心がしぼむようなことはできない。彼女の意思を尊重したい。彼女の時間を守りたい。彼女の笑顔がみたいから。
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