四 「一緒にいられることが楽しい」28

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四 「一緒にいられることが楽しい」28

 二人が共有した秘密の時間を告白したように聞こえた。  彼の本心だと感じたのは、彼の目が輝いていたからだ。  互いの思いを認め合っている気がする。ちょうどいい二人の距離感でいられる。気持ちに豊かさを感じる。   最初は、彼女の閉鎖的な生き方について、なにやら現実感が乏しい人のように思え、彼女のことがおぼろげにしか理解できていなかった気がする。  生まれつき不運な人も存在するのではないかと思ったこともある。ずっと歯を食いしばって、唇をかみしめているような生き方をしている印象も残った。  彼女はこの先どのように生きていくんだろうかと、不安で、不吉で、不憫(ふびん)で、虚弱な運命を想像した。  彼女は本来無類の寂しがり屋で、美智子さんの世話をすることが生きがいになっているのかもしれない。彼女にとっての理想的な家族のあり方を思い描いているのではないか。  彼は、逐一連絡を取り、彼女の時間を邪魔するのではなく、誰と話をしようが焼き餅を焼くわけでもなく、彼女の心地よい居場所を守っている。自分本位の思いを優先して押しつけない。彼女の気持ちを束縛しない。同じ位置に立ち、同じ歩調で歩く。双方の会話を楽しむ。とても良い関係の二人が存在する。互いに愛を与え合う関係だ。  二人の話を聞けば聞くほど、二人の関係を守ってあげたいと誰もが考えるだろう。他人であっても、第三者であっても、微笑ましくなる自分が存在する。  彼女のことを知れば知るほど、笑みが(あふれ)れ、穏やかな気分になっていく。  しかし、ひとつ気になることがある。男の人は、自分の恋人に、杉田さんのような男の存在を許せるものだろうか。他の男性とのつきあいも、大きく彼女の人間関係とひとくくりにして受け入れられるものだろうか。彼には嫉妬心がないのだろうか。  神崎さんの話を聞いた限りでは、彼女を大切に思う人まで、全部含めて、まるごと受け止めていると思えてしまう。  そんな人、本当にいるのだろうか。  私は疑問を質問に変えて神崎さんに訊ねた。
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