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四 「一緒にいられることが楽しい」29
神崎さんは杉田さんについて思っていること語り出した。
杉田さんに嫉妬というよりは、彼女にとっての杉田さんのような存在に僕がなれるのかということが不安で心配でした。杉田さんが他県へ左遷されて、美智子さんのことが心配だが、そう頻繁には会いに行けない。彼女は自分を守ってくれた杉田さんへの恩返しもあって、美智子さんの様子を見にいくようになる。
杉田さんは美智子さんを気にかけてくれることに感謝をしていると思います。
彼女の行為は苦労になっていない。逆に彼女にとっては望む行為です。
「お母さんができたみたいでうれしい。一緒にいられることが楽しい」と彼女が言ってましたからね。
実際、美智子さんと過ごしたあとは、彼女の表情が明るくて、とても和やかな雰囲気を漂わせています。
彼女が他人に対して心を開くようになった。他人を受け入れるようになったのは、杉田さんとの二年間が大きく影響していると思います。
もし、僕が杉田さんより先に彼女と知り合っていれば、今の関係はなかったと思います。僕は彼女に遮断されたまま無視し続けられたでしょう。一歩も踏み込める余地はなかったと思います。
彼女が少なからず他人と関わり合うようになれたのは、杉田さんとの時間があったからに他なりません。
ですから、僕は杉田さんや美智子さんに感謝こそすれ、嫉妬することなどありえません。
僕が杉田さんのことをどう思っているのかについては、ひとつお話をしなければなりません。杉田さんは僕のことを覚えていないと思いますが、僕は杉田さんのことを知っています。僕は杉田さんと仕事のことで関わったことがありますので。
僕の職場が主催するイベントに杉田さんと彼女が一緒に手伝いに来てくれたことがあります。その場で僕は杉田さんと関わっているのです。それも杉田さんに助けられました。
イベントの開催中に、お客さんの悲鳴が聞こえました。私たちは人集りをかき分けながら中心に向かうと、高齢者の方が倒れていました。僕は驚きから身体が強ばって一瞬身動きがとれなくなっていました。気が動転していたのだと思います。
杉田さんは彼女に救急車を呼ぶように指示を出し、倒れた高齢者のそばに行きました。
高齢者の方の呼吸を確かめたあと、僕に事務所の入り口の左側にAEDが設置されているからすぐに取りに行くように指示をしました。秒をあらそうから急いでくれ。と杉田さんが付け足しました。僕がAEDを持って駆け戻ると、杉田さんは高齢者の方の気道を確保し、人工呼吸を試み、心臓マッサージをしていました。持ってきましたと僕がAEDを杉田さんの横に置きました。すぐに取り出すように指示をされ、AEDを取り出し、準備をしました。杉田さんが「離れて」と叫んで、AEDを作動させます。高齢者の方の上半身が動きを見せました。杉田さんはすぐに心臓マッサージと人工呼吸を繰り返します。救急車が到着して、高齢者の方を運びました。高齢者の方は命を取り留めたそうです。
あとから聞いた話ですが、杉田さんは的確な対処をしていたそうです。そのおかげで高齢者の方は命が助かったと。
杉田さんは救命の講習も受けて、いざというときのために、できる準備をしていたということです。
イベントではなにが起こるかわかりません。万が一のために思いつく準備を怠らない。お客さんことを一番に考えて事にあたる。立派な方だと思います。
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