四 「一緒にいられることが楽しい」31

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四 「一緒にいられることが楽しい」31

 それから、僕は彼女のことを以前から知っていました。  実は僕と彼女は通勤電車が一緒なのです。彼女の優しさは何度もこの目で見ています。高齢者の方、妊婦さん、怪我をしている人、荷物を多く抱えている人には席を譲っていました。閑寂(かんじゃく)な通り道であっても信号を無視して赤で渡ることはしません。高齢者の荷物を持ってあげることもありました。落とし物を手にしたときは警察に届けます。  彼女を見ていると、今日もあの人に会えたらいいな。という感情が芽生えてきます。  見ているだけで微笑ましくなる人はそういません。それに、彼女は嘘をつきません。自分を守るために嘘はつきません。知らないことは見栄を張らないで知らないと正直に言います。他人の悪口を言っている人の中には入りません。陰口を言うこともしません。当然、人を落とし入れることはしません。人間として尊敬できます。信頼する人に値します。  椎名先生が彼女に友人ができたとあなたに話したでしょ。杉田さんではなく美智子さんのことです。  美智子さんがあの子を泣かすようなことをしないように言ったでしょ。あれは杉田さんのことではなく、彼女のことです。  杉田さんにとって、唯一の家族である美智子さんを気にかけて、見守っているのは、彼女です。  みなさんにもつながりができ、彼女を愛しています。みなさんの思いに感謝して、彼女もまたみなさんを愛しています。彼女が大切にしている人は、僕にとっても大切な人です。  彼女と杉田さんの間には、下世話な噂になる事実は存在しません。男女平等とか女性の社会参加とか叫ばれてる時代に、異性との関係がすべて色恋として判断するのはいかがなものかと思います。異性であっても仲間は存在します。食事をすることもあれば、喫茶店に行くこともあるでしょ。人としてのつきあいをしている人もいます。  僕たちは心が響き合う家族なのです。  戸籍よりも大事で大切な『心の家族』なんですよ。  僕の伝えたいことをご理解いただけましたか。もし、ご理解いただけなければ、これ以上あなたと話をしても無駄です。あとは、あなたが判断してください。  彼の告白が終わった。
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