五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」1

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」1

 人の話を聞くというのは、とても体力がいることだと身をもって思い知らされた。  私は彼らのことを知るだけで、それも一部に過ぎないエピソードを聞いただけで、精魂を使い果たしたように脱力と疲労を全身に感じていた。目覚まし時計のベルに無理矢理起こされたものの、身体が思うように動かない。目だけが開いている感じで、ベッドから天井を眺めて、身動きがとれない。布団から腕だけを伸ばし、携帯電話を手にして会社に電話をかけ、一日有休を取った。  今日はぼんやりしたい。ごろごろとだらしなく寝そべっていたい。なにも考えずに時間を浪費したい。静けさが部屋中を支配している。  私はゆっくり目を閉じた。布団の中で居心地悪そうにもぞもぞと動きながらいつの間にか寝入ってしまった。  目が覚めたときはお昼を過ぎていた。空腹感を覚えた。顔を洗って、歯磨きをする。台所へ行ってインスタントのお味噌汁にお湯を注ぎ、炊飯器からご飯をよそって、お味噌汁をご飯の上からぶっかけて、一気にかっ込んだ。喉越しは良かったが、食べた気がしなかった。体育座りをしてテレビをつける。見たい番組があるわけではない。人の声が聞きたかったのだ。  私はなにをしているのだろう。と思うだけで、その先は考えない。ごろんとその場で横になって呼吸を押さえる。はあと息を吐き出した。十回ほど繰り返した。このまま小さくなって、小粒になって、固まってしまいたいと思った。私はなにを思ってこんなにも無気力に落ち込んでいるのだろう。力が湧いてこない。理由がわからない。このまま誰にも気づかれず、誰ともふれあえず、消えてしまうのではないかと恐怖が襲ってきた。堕落が怖いと思えるのなら、私はまだ生きているとも思えた。
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