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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」2
彼らの話を聞いて、不甲斐ない人生を歩んできた自分に落ち込んでいるのだろうか。誰も私と競い合っていないのに。レベルが違いすぎる。なんのレベル。なにを比較しているの。私は説明がつかないショックを受けていた。意味や理由はわからない。彼らに罵られたわけでもなく、怒られたわけでもなく、拒絶されたわけでもない。なのに孤立感だけが渦巻いている。
私が彼らと同じような環境で生きていたなら。私にもっと人生経験の深さがあったならば。私のポストが会社で高い地位にあったなら。と、たるんでぼやけた理屈を言い並べる。そうだとしたらどうなるというの。身も蓋もない問いが返されてくる。
人は身近な誰かと比較しなければ安心できないのだろうか。
オンリーワンだなんて、心の強い人にしか持ち得ない考え方ではないだろうか。
私のように弱い人間には空威張りの言葉でしかない。
私は独り言でさえ噤んで、言葉を失ってしまう。
身動きとれない自分がこんなにも惨めな気分を味わうとは思いもしなかった。
自分がとても薄っぺらい人間に思えてくる。こころもとない気持ちが先行して身動きがとれない。
ふと、自分には友達がいなかったのではないかと不安と寂しさが重なり合って襲ってきた。なぜなんだろう。どうしてこんなにも落ち込んでいるのか、なにもわからない。心なき人が寛容な人にふれあい、自己嫌悪から、完無きまでに自分で自分を叩きのめしたような気分だ。
顔を上げて部屋を見回せば、部屋中が真っ暗になっていた。時間を飛び越えたように今日の一日が消えてしまった。
私はゆるやかに息を吐き出した。音のしない暗闇に押しやられていく。けだるさだけが残り、空腹感は覚えない。身体から全身の力が流れ出していくように気力がしぼんでいく。心が空洞化している。得体の知れない恐怖が獣となって私のそばを通り過ぎていく。わたしはひっそりと鳴りをひそめる。
私は会長から受けた使命を完了したはずだ。しかし、まったく充実感がわかない。達成感が得られていない。やっと起き上がり、机の前に座り、ノート・パソコンを起動させる。昨日の話を書き加えていく。
二時間は過ぎただろうか。私はカーソルを移動させ、書き加え箇所を黙読する。一通り読み終えた感想は、内容さえもっと充実していればと思う。箇条書きの報告書では伝えきれていない気がする。荒涼とした廃墟の中で、どこを見回しても色あせた感じから抜け出せないでいる。なにが足らないのか、理由がわからないまま焦っていた。
私は机を離れ、休憩を入れた。
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