懐かしさを感じた人に、心が響いたとき

五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」４

　駅前に近づくと、手に二つの袋を持っている彼女が見えた。
　彼女は両手が塞(ふさ)がっているため会釈(えしゃく)して笑みを見せた。
　私はわざわざ来ていただいたことにお礼を言った。
「こちらこそ突然ですみません。迷惑かもと思ったのですが、心配な気持ちが先に出てしまったものですから。夕食を食べていないようでしたので、押しつけになったのなら申し訳ありませんが、牛丼を二つ買いました。それとも外食の方がよかったですか。私はほとんど外食をしませんので、自分の感覚で買ってしまって」
　彼女は遠慮がちに言った。
　私は彼女の好意がうれしくてお礼を言った。
　早速、家まで先導して彼女と二人で歩いた。
　彼女を招き入れて、持ち帰りの牛丼をテーブルに置く。お茶を淹れて二人で座る。
「私も学生に頃はよく食べていました。今でもたまに食べたくなります」
「一食三百円台ですませられるところがいいですよね。お手頃な値段ですので、私はよく買って帰ります。自炊をおろそかにすると美智子さんに叱られますけど」
「美智子さんからはよく料理を教わっているのですか」
「訪問すると必ず二人で料理を楽しみます。先日、美智子さんからお話を聞いているのでしょ」
「あなたのことをはっきりとは語っていませんが、美智子さんとお話をして、いろいろ知ることができました。初めは杉田真一さんのことを言っているのかなと勘違いをしたこともありましたが、あなたのことを言ってたのだと、あとで気づきました」
　彼女は、最近の芸能ネタをテーマにして、意見を述べた。