五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」6

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」6

 私は、僻見(へきけん)を持たず、とりまとめた事情を勘考(かんこう)した上で、結論を導き出したいと思った。  テレビ、ラジオ、ゲーム、スマホ、などがないからこそ、彼女に集中して話に専念できる。相手の存在を100%尊重して向き合える。彼女との時間がとても快い。  ふと、文明の利器がもたらすデメリットに、言いしれぬ不条理と恐怖心が芽生える。  私たちは目に見えぬ一方的な攻撃者から身を守る術を持てないところまで来てしまったのだろうかと現在社会に蔓延(はびこ)る闇の深さを感じる。ばれなければなにをしても許される。という安易な気持ちが存在する。  道徳心の欠如がうかがえる。  それでも光と希望は私の目の前に座っている。  彼女の生き方が、現在社会に(あらが)う行為だとしても、勇気は与えられている。一筋の光と言えるかもしれないが。純粋に、彼女のような生き方をしている人には、幸せになってほしいと望んでしまう。この思いが(はかな)い祈りになってほしくない。  私は神崎さんについての話を彼女に訊いた。 「神崎さんと初めてであった印象は、懐かしい人に出会ったような気持ちとして覚えています。杉田さんや美智子さんと出会ったときのような感覚です。胸の中でポッと明かりが()いた心地良さというのか、穏やかな温もりを感じました。神崎さんは、私の時間というものを理解して認めてくれます。私の友達や大切な人とのふれあいという人間関係も含めてすべて受け入れてくれています。窮屈(きゅうくつ)さがなく、(わだかま)りがなく、束縛(そくばく)もない。小石が入らないほど、ちょうど自分の足に合った履き心地の良い靴に出会ったような気持ちでいられます。  神崎さんとは金曜日か日曜日に会うことが多いらしい。週末に会って、一週間がんばったねと互いをほめ合う。ご苦労様でしたと労う。週末のご褒美です。と彼女は優しい表情で言った。
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