五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」9

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」9

 私は二日間ほどかけて、これまでのことをまとめた。  まだ断片的な感じで、完結にはいたっていない。  噂の出所、噂を広めた真意、犯人の目的や動機がなにもつかめていない。悪ふざけやおもしろ半分やほんの軽い気持ちでしでかした行為とは私には思えなかった。まだまだ調査が必要で、詳しく調べなければならない使命感を覚えた。  翌日、井谷課長にこれまでまとめあげた内容を説明した。  冒頭に結論を持ってきた。 「二人の関係について、噂をされていたような内容で、揶揄(やゆ)されたり、非難されたりしなければならない事実関係は見受けられませんでした」  課長は私がまとめたペーパーを手にして会長室へ向かった。  一時間後、課長からの電話で会長室に呼び出された。  会長室に入るなり、課長の隣に座るように指示された。私が腰を下ろすと、 「吉野こころさん、ご苦労様でした。よく調べてくれた。ありがとう」  会長から労いの言葉をもらった。  会長と課長が区切った会話を再開した。  やはり、という言葉が飛び出している。  次の手はもう打ってある。と会長が伝え、はい、わかりました。と課長が返事をする。  私は意味がわからず、二人の会話に合わせて目を左右に動かす。  急に、会長から感想を訊かれた。 「提出された報告書を読ませていただいたが、書かれていること以外で、君は二人のことをどう思っているのかね、なにか他にも伝えたいことはありますか」 「今回、二人の関係について調べるようにとのことでした。杉田さんも三田さんも、お二人とも、人間性において尊敬すべきところが沢山あります。人間としての魅力を感じます。彼らは知れば知るほど魅了される方々です。私個人の意見ですが、人間関係において、それぞれの信頼感は、個々の判断により持ち得るものであり、第三者になんら否定されるべきものではないと考えます。ですが、噂の内容から、噂を広められた原因は、二人になんらかの恨みを持っている、第三者の悪意によるものであると結論づけられます。私は噂の出所について、もっと調べたいと思っています」
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