五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」10

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」10

 私が会長に感想を伝えて、さらなるお願いをしたとき、 「それは君の仕事ではない。その先は組織の仕事だ」  会長からぴしゃりと(さえぎ)られた。 「会長に対してなにを言い出すんだ。言動を(つつし)みたまえ」  課長から追い打ちをかけるように叱責(しっせき)された。 「まあまあ、もういいだろ。吉野君。君の申し出はわからないでもないが、ここから先は君に携わってもらっては困る。事は慎重に進めなければならないことだからね。納得できなくても理解してもらうしかない。ご苦労様でした。もうさがっていいよ」  私だけ会長室から退室させられた。  (ちから)(およ)ばず。  自分がとても小さな人間に思えた。  もう昼休み時間になっていたので、そのまま外へ出た。  短見的な発想ではない。私なりに何度も思惟(しい)して出した結論なのに。  神崎さんと組めば真意にたどり着ける気がした。  なのに、私に与えた仕事はここまでだと、中断させられた。  私自身の是非が混濁した感じで、真っ青な空を見上げると、自然と景色が水中になった。  晴れた日に、涙は似合わないのに、それはわかっているのに、しずくがぽろぽろと目から(こぼ)れて頬に流れた。
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