一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」15

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」15

 二日後、私は杉田さんに会って話をうかがいたいと連絡を取ったが、 「あなたにお話しすることはなにもありませんので、申し訳ありませんが、もうすんだことですから静かにしておいていただけませんか」  と丁寧に断られて電話を切られた。  万事休す。八方塞がり。撃沈。  私はペシャンとその場に座り込んでしまうほど力が抜けた。  私の名前を聞いた途端にあの返事だもの。まるで先回りされた感じの対応だ。まいったな。自分のふがいなさに情けなくなってきた。はあああ。大きなため息を漏らしたとき、ふと思い浮かんだ。  先回りされた感じの対応……。  杉田さんの返事はまるで彼女とのことを知っている上での返事だと思える。もしかして、彼女と杉田さんは今でも連絡を取り合っているのではないか。だからこそ私が名乗った瞬間、杉田さんに断りの返事をされた。そうよ。そうでなければ、なにも用件を言ってないのに、『あなたにお話しすることはない』と用件を見透かしたような返事などできるはずがない。ということは、二人の噂は満更嘘ではないのかもしれない。だから彼女は杉田さんの名前を口にした途端に表情を変えた。この見方は筋が通っている。一理ある。ならば諦めるのは早すぎる。でもどうすればいいの。私は次の糸口が見つからないまま思案に暮れた。  私は彼女の言葉を思い出した。 「一体私のなにを知っているというのですか」  確かに、私は彼女のことをまだなにも知らない。  彼女の経歴、彼女の過去、彼女の生い立ちなど、なにも知らない。彼女が生きてきた原点から知ろうとしなければ、今、彼女がどうのように考えて生きているのかなど知り得ることはできない。  私は考えに考えた末、彼女の家族について、彼女の幼き頃の生活について、ちゃんと知らなければいけないという結論に行き着いた。
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