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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」14
さて、この事件のからくりは浮き彫りにされることになったが、穴を開けたお金は結果的には補填されている。会社のお金を搾取したことに変わりないが、会社側も表だって追求することは対外的に企業イメージダウンのデメリットが多すぎる。組織は左遷という形で事を収めた。
彼らは二度と浮き上がることもなく、数年後に三人ともクビになることは明白だと神崎さんが断言した。
組織はそんなに甘くない。対面を維持しながら誰にも知られずに処罰する。だが、ひとつ納得しかねることがあるという。杉田さんのことだ。
組織は濡れ衣を着せられた杉田さんを呼び戻そうと試みたらしい。これで杉田さんの汚点は払拭される。温情的な配慮だ。
しかし、杉田さんはせっかく本社に戻れるチャンスを断ったというのだ。しばらくは、今の場所でがんばりたい。と説明したらしい。
チャンスはタイミングだ。
自分の都合のいいときに与えられるものではない。
我々の好意を無にするのかね。今回のチャンスを逃せば、次はないかもしれないぞ。と強く言われても、それでもいい。と杉田さんは返事をしたらしい。
「静かに生きたくなりました」
それが杉田さんの最後の言葉でした。
杉田さんの思いを聞かされて、私は愕然としました。ひとつの出来事で、人の生き方まで変えてしまうこともあるのだと実感しました。
祖母の近くに住みたいとは考えなかったのだろうか。今の場所に杉田さんの生きがいはあるのだろうか。僕には理解できない判断です。と神崎さんは自分の行為と努力が受け入れられず、報われなかったことを辛そうに語った。
私はなにも言葉をかけられず、ただ神崎さんを見つめることしかできなかった。
森の中で灯りを見つけた途端に濃霧に包まれ、先行く視界を閉ざされた気持ちだろう。
杉田さんはやっと疑いが晴れたのに、どうして今の状態を望むのか、私にも理解できなかった。
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