五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」15

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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」15

 本来の業務に専念できるようになり、日常の生活スタイルにもメリハリがでるようになった。予定があいてるときは、なにかと用事にかこつけて、ちょくちょくと彼女の家に顔を出した。今日の用事はあなたと話をしたかったからなど。もろ私的理由だ。彼女が私を受け入れてくれるのだから、私は遠慮なく彼女に甘えた。  彼女は金曜日と日曜日は神崎さんと会うことになる。ときどき金曜日の夜と土曜日は美智子さんと会うこともある。ようするに金曜日から日曜日を外せば、彼女の迷惑にはならない。  私たちの会話は自由だ。テーマなどという堅苦しいことは一切ない。思いつきの話題に結論を求めない会話。自由気ままに時間を過ごす。これをリフレッシュ、もしくは息抜きと呼ばずして伝える言葉はないだろう。とにかく私には快いのだ。  最近、杉田さんはどうですか。私の問いかけに、先日、アニメ映画のDVDを買って、ごろごろしながら観ているようでした。今の杉田さんには、「のんびり」という言葉が似合います。彼女は目尻を緩くして笑った。  あの、美智子さんはどうですか。彼女は声を出して笑いながら、相変わらず元気ですよ。とガッツポーズをして美智子さんの元気さをアピールする。とてもいいことだ。  じゃあ、神崎さんとは、と興味を向けて訊ねた。明日、楽しいデートです。とあっさりのろけられた。  ああ、いいな。私だけか。と言って両手を伸ばしてそのまま後ろに寝転んだ。彼女は姿勢が悪いと注意などしない。そのかわり、あなたも恋人を作ればいいではないですか。上から目線の言葉に、私は、ううっ、と奥歯に力が入り、いいな。と天井に向かって声をあげた。彼女が両手で口を押さえて笑った。  彼女とたわいない会話で過ごす時間が好きだ。身も心も、すっと軽くなる気がする。明日に向かう栄養剤のようなものだ。  私はほどよい時間を過ごして家に帰る。  帰り際、また来てね。と彼女。まかしとき。と美智子さん流に気っぷが良さそうに返事をする。これが気持ちいい。部屋に戻るとぐっすり朝まで寝られる。  月曜日、彼女の報告が待ち遠しい。
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