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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」17
一瞬、彼女の頭が真っ白になった。
他人の空似と思いたいが、母親似のその顔は忘れようもないほど似ている。声やぶっきらぼうに言い捨てる口調も瓜二つである。でもおかしい。わがままで素行のおさまらない妹ではあるが、妹は私立大学で勉学にいそしんでいるはずだ。教材やら資格を取得するための講習代やら生活費など、なにかと費用がかさむので仕送りをするように。と母からの手紙で、いくらか用立てて送金した。
妹は真面目に大学で勉強していると思い込んでいた。
その妹がこんなにも乱れた姿をして、酒場で男と飲んだくれている。
連れ添う二人の男たちを見ても、見かけで人を判断するのはよくないことだと頭ではわかっていても、風貌、振る舞い、言葉遣い、どれをとっても真面目とはかけ離れた男たちである。
人として、価値観や生き方が自分とはまったくかけはなれた人間としかいいようがない。
生きる世界が違う人間が目の前にいる。
「こんなところでなにをしてるのよ」
彼女の第一声には怒りが込められていた。
「なにをって、見てわからないの。飲んでいるに決まっているじゃない」
妹は開き直って言い放つ。
「あなたは就職活動をするためにがんばっているはずでしょ」
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