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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」19
彼女は私にトラブルを打ち明けたあと、「せっかくのデートなのに、とんだ失態を神崎さんに見せてしまった」と深く落ち込んだ。
彼女は、妹がまっとうな人生を歩むように。妹の自立を促すために。彼女が不帰の人にならざるをえなくなったとしても、あえて厳しく言って突き放したのだと思う。楽をして遊び金が手にできなくなれば、無駄なものは切り詰めなければならない。お金を稼ぐ苦労も知るだろう。低賃金の時給でも働かなければ手に入らない。お金のありがたみを身にしみなければ、人生を浪費してしまう。長くかかるかもしれないが、妹さんにもいつか理解できる日が来ればいいけれど……。嫌な予想だけはしたくないと思った。
彼女はできうることはしたと思う。心が通っていなくても、簡単に断ち切ることができない血縁がいる。彼らと関わると身も心もやせ細ってしまう。彼女は苦しい生活をしてきたのに、心がやせないように、誠実であるように、人としての道を外さないように、必死に踏みとどまってきたのだ。
なのに彼女の戸籍上の家族は、金がないと言っては彼女の財産を掠め取り、感謝どころか罵ることしかしなかった。
こんな人たちは家族なんかじゃない。
彼女を見ていると、「生きていれば」の前に「正しく」という言葉がついてくると思う。
生きていくことは大事だ。
しかし、なにをしてもいいことにはならない。
人として正しい道を歩まなければ意味をなさない。
長生きが美徳ではない。
成果が美徳ではない。
心持ちが美徳でなければならないのだ。
彼女とふれあうことでの満たされた気分は大切にしたいと私は思う。
総じて言えば、彼女こそ精神的にたくましく、真に強い人なのだと思う。
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