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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」21
もし、今日、美智子さんに打ち明けて叱られることになったとしても、私は全面的に彼女の味方をして、一生懸命かばう気持ちがある。私も腹をくくって彼女の隣に座った。私の決意をよそに、美智子さんは、彼女をかばい、彼女を慰め、彼女を気遣うことに終始した。
「大変なことがあったんだねぇ。間接的にしろ、仕送りで世話になっている姉に絡むなんて、親も親なら妹も妹だ。親離れもしなければ、姉離れもしない。贅沢な生活や楽をしたいがために、働き者に頼り切るのは家族愛じゃない。いつまでも家族を甘やかせているあんたにも責任がある。早く自立できるように解き放ってやるのが一番だよ。解き放つというのは、あんたから家族を切り離して距離をとるんだよ。生きていくためには、人間は働かなくちゃいけないんだからね。ちょうどいいタイミングだと思いな。だからいつまでも引きずってじめじめしてちゃだめだろ。そんなことはすっきり忘れちまうのが一番だよ。くよくよしなさんな。あんたの妹も歳をとれば、いつか理解してくれる日が来るかもしれない。少なくとも自分が母親になって子供を育てるようになれば、あの日のあんたを否が応でも理解はできなくても実感することになる。ちゃんと理解してくれる日も来るかもしれない。来なければ忘れちまいな。ずうずうしい人間は反省しない人もいるからね。すぐにどうにかしたいと焦ることはない。今はなにを言っても、頭に熱を持ってる間は他人の言葉なんて入りゃしなんだから。でんと座ってる気持ちでいなさい。それより、ちゃんと食べてんのかい。少しやせた気がするよ。今日はあたしがごちそうを作ってあげるから、腹一杯食べな。いいね」
美智子さんがじっくり時間をかけて彼女をはげましたあと、ナポリタンやオムライスに煮物など、お得意の料理でもてなしてくれた。彼女の食事も幾分戻ったようによく食べていた。
美智子さんのカンフル剤は効き目がある。心の栄養補給も半端じゃない。
彼女の人間関係をそばで見ていると、私まで元気が出てくるようになる。
二人を見ていると、お世辞ではなく、家族っていいなとつくづく思ってしまう。
そう、二人は互いを思い合う家族愛に包まれている。
夕食も終えて、食器の後片付けとしたあと、帰り際に美智子さんがにこやかに言った。
「今度、あんたの彼氏とやらを連れてきな。あたしが品定めをしてあげるから。ろくでもない男なら、大きな壁になってあげるからね」
ひぇっ、と彼女が素っ頓狂な声をあげて顔を赤らめた。
「まっ、あんたが連れてくる男に間違いはないだろうけどね」
美智子さんの笑い顔を見て、私も彼女も胸をなで下ろすようにほっとした。
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