一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」16

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一 「今のあなたに、彼女を受け入れる覚悟と勇気がありますか」16

 次の土曜日、私は彼女の故郷に向かった。  まず、履歴書を確認して、彼女の実家を訪問した。  玄関に出てきたのは母親だ。  私は事前に電話を入れて、社内報に職員を紹介するコーナーを設けた企画があり、今回、彼女の特集を組むことになったので、親御さんから彼女のことについて取材をさせていただきたいのですが。と説明した上で、突然訪問して申し訳ありません。とあいさつをして名刺を手渡した。ご丁寧に、とは言ってくれたものの、私の名刺など一度たりとも見ることはなかった。私は手土産を母親に手渡した。母親の背中に誘導されて、家の中へあがらせてもらった。  家の中は無造作に物が置かれており、お世辞だとしても、とてもきれいだとは言いがたい散らかりようだ。ブランド物のバッグや衣類もごちゃ混ぜにしたように置き散らかしている。  一番驚いたのは、父親がパッチにランニング姿であり、まるで風呂上がりに近い状態で、テレビの前に寝そべり、落ち着きなくチャンネルを切り替えながらテレビを観ていたことだ。  父親は一度だけちらっと私に目を向けてそのままテレビに顔を戻した。  父親からのあいさつはなし。それにこんな昼間から赤ら顔をしてビールを飲んでいるとは。こちらのお願いで訪問をしたとはいえ、とても他人を招き入れる態度とは思えない。  なんとも呆れた感情が湧いてきた。
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