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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」23
早く、彼女に来てほしい。会えば、さっさとこの場所を離れたい。いぶかしさと恐怖心を抱きつつ、ちらちらと気にしながら、私も男たちと同様に、会社を出てくる女性社員を確認した。
やっと彼女が出てきた。
私は彼女に向かおうと一歩踏み出したとき、男たちも彼女の方を目指して小走りで向かった。えっ、と、一瞬、冷やっとした空気が私を取り囲んだ。私は足が動かなくなって、男たちを目で追った。
彼女が近づいてくる男たちに気づいて、一瞬、立ち止まった。男たちが彼女を取り囲んだ。
「なっ、なんですか、あなたたちは」
彼女が驚きの声で訊ねた。彼女に後ずさるような空間はない。彼らの行動は互いに示し合わせたように、スマホを彼女に見せて声をかけた。
「三田さんですよね。誘われたので、今日来ました」
三者が同様の意味で彼女に話しかけ、親しみを滲ませている。
「なっ、なんのことですか」
彼女はたじろぎながら否定する。
「とぼけないでよ。自分から誘っておいて」
「私じゃありません」
彼女はなおも否定する。私はやっとそばまで行き、スマホを見せてと断ってから、男たちのスマホを確認した。
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