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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」24
「私はこの会社に勤めるOLです。歳は若くないけど乗りは若いですよ。毎日暇を持てあましてます。ぜひ、私を誘ってください。楽しい一夜を共にしましょう。きっとあなたにとって忘れられない夜になりますよ。勇気ある方、お待ちしてます」
ひゃっ、思わず卑猥な内容を見て私も驚きの声をあげた。スマホに映ってる写メをよく確かめた。間違いなく彼女の姿が写っている。一瞬、次の声が詰まった。私は息を止めたのを一気に吐き出すように言った。
「なんなのよこれは」
私は彼らを睨みつけた。
「僕たちに訊かれてもわかりませんよ。僕たちは誘われたから、ここまで来ただけですから」
迷惑をかけられたのは自分たちだ。被害者は自分たちの方だと言い訳をする。
私は彼女の写真といかがわしい誘い文を書いた送り主のアドレスをひかえた。彼らにメールを送ってもらうのは、後々トラブルになるか、危険がつきまとうことになりかねない。とにかく、これは悪戯であって、本人の意思ではないのでお引き取りください。と私は彼女に代わってお断りをした。
彼らはぶつくさ文句を言いながらその場を去った。
私が彼女に目を向けると、彼女は血の気が引いたように青ざめて、ぶるぶると震えていた。私は抱き込むように両手で彼女の肩を包み、ゆっくり車道まで歩き、タクシーを止めて帰ることにした。
こんな日に外を歩いていると、また変な輩が近寄ってくるかもしれない。間違いだと説明をして納得してくれればまだいい方だ。もし、逆ギレして、暴力でもふるわれたなら、とんでもないことになる。お金がかかっても、命にはかえられない。身の安全が第一だ。
彼女は車中でも小刻みに震えていた。彼女の恐怖心は計り知れないものだ。本人にしかわからないことだろう。私は強く彼女を抱きしめた。家の近くでタクシーを止めた。タクシーを降りる際、私は先に降りて、周りに誰かいないかを確かめてから、彼女に声をかけた。
「大丈夫、誰もいないから今のうちに」
私は彼女から離れることなく部屋まで直行した。部屋に入ってすぐにドアの鍵を閉めた。
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