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五 「人と人とがふれあえば、情ってもんが生まれるんだよ」27
真に恐怖の力を思い知った気がする。
「明日、君は会社を休む方がいい。僕がどんな状況になるのか、会社でアンテナを張っておくよ。帰りのときも周りを確かめておく。心配なのは、ここの住所までは情報を流されていないと思うけど、不審な人物が訪ねて来るかもしれないから、誰が来ても絶対にドアを開けないこと。誰であってもドア越しで話をすること。その方がいい」
「じゃあ、私も一緒に明日会社を休んで彼女といることにする」
「それは助かります。迷惑をかけるけど、お願いしていいかい」
「もちろんです」と私は胸を張る。
「心強いけど、私、迷惑をかけすぎてる」
彼女は安心と申し訳ないのとで、はっきりどうしてほしいと言えないようだ。しかし、彼女の心細さは伝わってくる。
神崎さんは心配をしてさらに提案をする。
「問題はそのあとだな。しばらくは注意を払って、周りに目を配る。もし、今日のようなことが起きれば、しばらく休んで、美智子さんに事情を説明して、美智子さんの家にいさせてもらうことも考えた方がいい。もちろん僕の部屋にいてもいいんだけど」
「美智子さんを巻き込むことはしたくありません。もしも、私の事で美智子さんになにかあったら、私、死んでも死にきれない。それだけは絶対にだめ」
彼女は神崎さんの提案をかたくなに拒んだ。
「わかった。そのあとの対策は、明日以降に考えることにしよう」
神崎さんはすんなり受け入れて、彼女の意思を尊重した。
私は神崎さんがいる間に泊まりの用意をするため、近くのコンビニとかに買い物をさせてもらうことにして、しばらく外へ出かけた。
私が彼女から預かった部屋の鍵でドアを開けた。もちろん、鍵をあける前に自分の名前を名乗って、二人を安心させた。
部屋に入ると、神崎さんが待ち構えていたように立ち上がり、今日はこれで失礼するよ。大丈夫だから。と彼女の肩に手を置き、笑顔を見せて帰って行った。
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